そらになるこころ

緊縛師 青山夏樹のSMや緊縛に関する思いを綴るブログ。内容重めです。

男性初の駿河問い

ある時

「ねえ、今度あの吊りやってみたい」

とパートナーが言いました。

あの吊りとはどの吊りかを聞いてみると

駿河問い」でした。

 

彼は責めに関してでも、

いつも子供が新しい玩具をねだるように

好奇心に満ちた目をキラキラさせて

「あれやってみたい!」と言います。

 

ずっとSMの世界で生きSMしかやってこなかった

私には、自分が痛い思いをすることなのに

こんなにも無邪気にやりたいと言ってくれることに

しょっちゅう面食らいます。

 

だけど、今回

その...やってみたい吊りは

日本の拷問史に残る悪名高き釣責の最高峰である吊りです。

流石に無理だと言う気持ちで

最高にキツいけど本当にやってみたいのか

聞いてみると

「やりたい」と嬉しそうに言います。

 

しかし駿河問いは特に男性の体のつくりと体重でやるには危険過ぎます。

 

そこで

「男の人はまだ誰もやっとこないよ。ちょっと無理じゃないかな」

と言ってみました。

「じゃあこれから練習しよう!」

ワクワクしているような笑顔。

ですがトレーニングとは訳が違います。

じっくり話しを聞いてみても、

誰もやったことのない新しい吊りを受けたいと言う気持ちは冗談ではないようでした。

 

わかった。

 

そのうちやってみようね。

そう答えて終わりました。

 

それからまず考えました。

 

実際に出来るかどうか。

しかも安全に出来るか。

 

完全な駿河問いは私の片手で80kgを挙げる必要があります。

しかし私にはその力はありません。

吊りのシステムをしっかり練った上で

舞台の上でゾーンに入った時の超集中による馬鹿力に賭けてみれば

もしかしたら行けるかもしれません。

 

だけど・・・私は怖かった。

 

失敗すればトレーニングも出来なくなるかもしれない。

壊したくない。

 

吊りは石橋を叩いて叩いて叩き壊してもいいから

とことん安全確認した上でないとやってはいけません。

大切な人を見世物にして壊す事はあってはならないのです。

 

しかし、恐れる気持ちと同時に

私の中のSが「これが出来たら凄いぞ」と

興奮して舌なめずりしていました。

 

性癖というものは厄介な猛獣です。

 

 

 

それからしばらくして、2020年の初っ端

1/4のデパートメントHでショーをやるお話しを頂きました。

 

デパートメントHでやるのは2回目。

 

内容について考えました。

 

いつかやろうと言っていたテーマのあるショー

(ヒーローやられ)にするか正統派SMにするか。

 

そして

年明け最初のショーで、今まで誰もやったことのない吊りをやってみようと2人で話しました。

 

去年11月に最悪の喧嘩をして、それを乗り越えた後だったので心を合わせて超難関に挑戦する事はとても意味があると感じました。

 

ただ、この吊りだけは練習をすれば良いというものではありません。

練習で壊してしまう危険性も高く、何度もやらせたくないのです。

1度だけ、体の柔軟性とサイズを確かめることはしたいと思いましたが・・・。

 

 

お互い忙しく、練習する時間も取れないまま年が明けました。

知り合いのお店で練習することも出来ましたが、この吊りは誰にも見せたくないので場所に悩みました。

危険だから、安全にする為の条件にこだわり続けて練習することを渋っているとパートナーは少し不機嫌になりました。

 

いつやるの!

 

場所が・・・

時間が・・・

 

そうやっていつも後回しにする!

 

その通りです。。。

 

やるしかない。

 

・・・はい、やります。

 

いつもこうして尻を叩いてくれます。

 

 

 

結局、練習と言ってもひっくり返す一瞬なので

近所の公園行くことにしました。

 

公園に行くにしても

洋服が分厚くて引っかかったり

滑らなくて引っかかったり

寒さで筋肉が固くなっていたり

考慮が心配な要素は沢山ありました。

 

けれどパートナーの「絶対やる!」に

押されてやや渋々公園に向かいました。

 

 

練習初回。

最初は何も知らないので

すんなり出来ました。

(その時の様子)

https://twitter.com/natsukiss1018/status/1212272852453351425?s=21

 

人は恐怖心で筋肉が硬直します。

危険な吊りほど脱力しなければ、安全を考慮してセットしたポイントもズレたり感じる痛みが増します。

注射の時を想像して頂けるとイメージし易いかもしれません。

怖がって緊張していると筋肉が硬くなり針がすんなり刺さらず苦痛が増すのと似ています。

 

私は以前からパートナーとショーの練習をしません。

それは新鮮な嘘のない反応を観客の皆さんと共有したいからと言う理由ともう1つ

先入観や痛みに対する恐怖心を持たせない為でもあります。

 

縛りに関しては特に

責め手がいかに相手の信頼を勝ち得て

相手を究極のリラックス状態に導く事が最も重要です。

 

緊縛は魂を解放し救済する為にするものだと考えています。

装飾的なファッションでも、目新しさで承認欲求を満たす為のものでもありません。

日常生活を肩で息をしながら頑張っている人が

本当の自分に戻る為の逆療法のようなもので

痛みと苦しさは生きることに目覚めさせる強烈な刺激です。

 

ですから、吊りは痛いです。

苦しいです。

けれど、その強烈な刺激を受けない限り

壊せない心の鎧があるのです。

その為に厳しい吊りをして、責め縄を与えます。

 

 

最初の練習はあっさりと上手く行きました。

 

これなら出来る。

 

そう思った所に「明日もやろう!」と

パートナー。

 

こういう所本当に前向きと言うか筋トレ思考です。

 

そして翌日。

少しゆっくりしていると日が傾いて来ました。

冬のお日様は急ぎ足で逃げて行きます。

 

外に出ると既に寒くて、散歩には気持ち良いですが

厳しい吊りにはかなり条件が悪くなっていました。

 

公園に着くと、日差しは既に公園から去っていて

ぐんぐん気温が下がって行きます。

 

狸吊りから駿河問いに変形させる為には

少しでも布の厚みがあったり摩擦があれば回転が止まってしまい危険なので寒さの中でも上着を脱いでもらう必要があります。

 

私も自分の上着が邪魔しないように上着を脱ぎます。

 

セッティングを始めると指先が凍えて上手く動きません。

 

パートナーは前回の痛みを体が思い出して痛みをいかにして逃すか、ポジションを工夫します。

 

いざ狸にすると

 

「手首が痛すぎる!!!」

とギブアップ。

 

縛りがキツ過ぎた。縄が固い。

色んな意見が出ます。

https://twitter.com/natsukiss1018/status/1213585387370643457?s=21

 

最初に挙げる足を入れ替えて、痛みが強い方の手首の負担を減らそうとしてみます。

 

 

しかしギブアップ。

 

 

母指球に感覚鈍麻が起こっているようです。

手首を動かして正中神経を圧迫したようです。

 

ここで私は

この悪条件の中で練習すること

そもそも男性で駿河問いに挑戦する事を止めようと言いました。

 

するとパートナーは火がついたように怒ります。

 

がっかりした!

安全について人一倍呼び掛けている私がそんなことでいいのか

専門家ならもっとしっかりやって!

なんでこんなに痛いの!

手がかじかむなら温かい飲み物買って温めろ

大事だって言ってくれるけどその程度なのか

 

鉄球の様な重い言葉が次々に投げられます。

 

凍てつくベンチに座って話し合いました。

 

今までSMを知らなかった彼の

「痛みは縛りに必要なの?!」

という素朴な疑問に答えたり

(その答えは上の方に書いています)

何がいけなかったか、意見交換を沢山しました。

 

彼はパーソナルトレーナーの資格を持ちボディメンテナンスのプロでもあるので解剖学的知識もあります。受け手としてのフィードバックも貰いながら、セッティングについて話し合いました。

 

考えてみればこの吊りは今まで特定の女性にしかやったことがありません。

 

特に、彼の体はとても縛るのが難しいです。

 

縛り適した体というのは柔軟性だけではなく

適度な筋肉と適度な体脂肪が必要です。

骨と神経と筋肉と縄の間で体脂肪は緩衝材になります。

そういう意味で彼の体は体脂肪が少なく、急所に入りやすいのです。

 

 

女性との体の作りの違い

SMに対しての考え方

痛みと信頼

 

全てを話し合いました。

 

 

私の気持ちとしては、もうやりたくなかった。

情けないですが大事な人を壊したくない気持ちだけで、乗り越えてみようという気持ちは薄かったのが本心でした。

 

でも彼は諦めませんでした。

 

その強い気持ちに押されて

もう一度やりました。

 

何度もダメージを重ねるのは良くない。

けれどこの強い気持ちを否定出来ない。

 

今度は上着を着て、フィードバックを元に考えたポイントに集中してセッティングしました。

https://twitter.com/natsukiss1018/status/1216307426594455553?s=21

今度は大丈夫。

強い痛みはありましたが、上手く行きました。

 

 

その夜

ずっと考えていました。

 

解剖図を眺めながら。

 

アフターケアのストレッチと急所とを繰り返し考えました。

 

その上で

絶対に安全に決める為には

どうしても受け手の脱力が必要だと

改めて感じました。

 

 

何があっても必ず守る。

万が一手が使えなくなっても

私が一生面倒見る。

信じて。

 

そんな言葉を送ったと思います。

 

 

私も腹を括りました。

 

 

 

そして当日。

 

私の使っている縄は湿度の影響を大きく受ける縄で

会場の状況によっては、縄が走らず手間取ってしまうこともあります。また何より、その日のパートナーのコンディションもあります。

 

万が一条件が整わなければ、変形駿河問いを中止して他のプレイに変更できるように色んな道具を舞台の上に用意しました。

 

 

出番直前、舞台袖で

 

絶対に守るから。

 

そうパートナーの目を見て言いました。

 

うん、信じてる。

 

そう返って来ました。

 

 

弱虫の本音を言えば

 

緊縛事故の活動を始めてからずっと

アンチが多く、いつ事故を起こすか手ぐすね引いて見ている中で緊縛ショーをやってきました。

 

スポンサー企業さんもブースを出しています。

 

私が教えている未来を担う弟子のような女王様たちも見ています

 

新年一発目のステージです

 

そしてパートナーの全幅の信頼。

 

そんな中でショーをやることは

改めて大きなプレッシャーでした。

 

 

大技を見せる為にやる訳じゃない。

派手なステージでも、ちゃんと私たちのSMをやろう

 

 

そう確認してステージは始まりました。

 

 

寒い時期だから、ステージは乾燥しているだろうと言う予想に反して

会場の熱気と多めに焚かれたスモークとで

湿気が凄く、柔らかさを優先させて選んだ2軍の縄達はことごとく絡まり滑りません。

 

本当に縛りとしては65点の内容でした。

 

 

途中までは、やはり駿河問いは無理かもしれないと思いながらやっていました。

 

けれど、途中でパートナーの顔を見ると

私を真っ直ぐ見詰めて黙って何度も頷きます。

 

この人のこの気持ちを受け止めなかったら

何も始まらない。

そう感じました。

 

私は腹を括ったんだ。

 

縄のコンディションで全ての進行がズレ、尺も厳しくなって来ましたがやる事にしました。

 

約束した赤い縄を手に彼に近づくと

彼の目が一段と強く私を見ました。

 

 

それでも、縄の状態が悪く・・・

とても悲しくなりました。

 

どうして大切な人をこんな危険な吊りで責めないといけないんだろう。

どうしてSMはこんなに苦しいんだろうと。

 

切なくて泣きそうになっていた時の顔を撮って下さっていたので後で見返して少し涙が出ました。

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狸吊り。

 

痛さと怖さを知った上で

 

パートナーは今までで1番脱力していました。

 

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駿河問いへ変形

 

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Everything I needが流れる中

全て終わりました。

 

 

舞台袖に戻ってパートナーを抱きしめて

 

何度もありがとうと言うと

 

絶対に出来ると思ってた。

 

と言ってくれました。

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年々SMはライト化し、吊りも習い事や

バンジーのようなアクティビティになりつつあります。

気軽に試して、一生残る神経麻痺を負う方も少なくありません。

 

プロとして何十年もSMをやっていても

未だに難しい事は多く

いつも緊張感を持ってやっています。

 

派手に見える吊りですが

カッコいいパフォーマンスとしてでは無く

人間の心のぶつかり合いや愛情表現として

苦しく切なく、暖かいSM本来の姿を実際に見て頂き

感じて頂ければと思います。

 

 

今回、この挑戦で新しい気付きも得られました。

 

受け手がどのようなストレッチや準備をすれば

怪我を防げるかも見えて来ました。

 

これから2人で

 

知識と経験に基づいた事故防止のストレッチと

アフターケアについて本にまとめてみたいと思います。