ツイートで嫌と言う程書いてきましたが改めて私がショーを1から修行した場所、六本木ミストレスの本当の最後の夜について書きたいと思います。
(駿河問い)
私が六本木ミストレスに入ったのは2001年の12月でした。いくつも恋をして沢山仕事をして夢を掴んできた思い出が詰まった場所です。
女王様プレイにしか興味が無かった当時の自分が緊縛、特に吊りの楽しさを知ったのもミストレスでした。相手の体が宙浮き、生殺与奪の権利が自分の右手だけに握られるSとしての興奮がそこにはありました。吊りにはそれだけではなく、Mの雑念を一瞬にして無効化する効果もあります。吊りの奥深さ、面白さ、そして危険も学びました。
月に1度緊縛師がゲストで来てショーをやるというので、後の自分の師匠のショーを観ました。男性がSのSMに全く興味が無かったので期待せず観ていました。ところが、そのショーは私がやっているのと変わらない心の対話のSMでした。
そこから興味を持つようになり、後に粘って粘って弟子入りするようになります。
弟子入りしてからは、女王様縛りをやめるように言われ本格的に縄だけで魅せるパートナーが主役の縛りを習得するようになるのですが男の師匠がやっている吊りは物理的に女には難しいと思われるものがいくつかありました。
難易度が高いものはほぼそうです。
狂言でプロとしての進級試験であり登竜門が「釣狐」であるのと似ていて、最終的に独り立ちする前に習得すべき吊りがありました。
それは現在、パートナーの首への負担を考えて私がアレンジした「月下美人」の原型となる元師匠の前のついた吊りでした。
(月下美人)
1つでもセッティングが失敗すればパートナーは落下してしまう吊りで、完成形まで壮絶な痛みが伴います。勿論完成してもキツいですが。
私は師匠から習う時は、その当時の自分の男のパートナーと練習しました。※「一本鞭」に出ていた空(くう)
実際やってみると、私の体重より30kgは重い男をあの形に手の力だけで引き上げるのは不可能に思えました。
出来なくて
「女だから力がない」とシステムのアレンジを希望すると
「俺の名前のついたこの吊りを変えるなら、この吊りをやることは絶対に許さない!」
「女だから上げられない!この方法でやらせて欲しい!」
「認めねえ!」
「絶対やります!」
っと何度も楯突いて泣くまで大喧嘩して、手をボロボロにして特訓しました。
80kgの男はビクともしないのです。
そんなある時、縄目の感覚に気付いて
「もしかして、こう言う事ですか?」
と聞くと
「やっと気付いたか。やってみろ」
とチャンスをもらいました。
すると、上がりました。
完璧な位置までは無理でしたが及第点は貰えました。
セッティング時、全てのポイントを踏まえてその先に必要なのは80kgを持ち上げる筋力ではありませんでした。縄目に気付いて、縄目を正しく扱えればシステムは機能するのです。
この吊りがプロとしてのスタートになる吊りだと言う意味がやっとわかりました。この吊りが出来れば全ての必要なテクニックを習得した事を示すものになるのです。
そこから10年近くコレと言う形に決められず居たりもしました。やっと自分のものに出来て来たと感じられるようになったのは改良を加えたここ数年の事です。
話は駿河問いに戻ります。
元師匠とミストレスの社長から、駿河問いと言う吊りについては何度か話を聞いていました。
日本の拷問史上最も過酷な吊りだと。
それから文献を読み漁って調べるうち、どんどん駿河問いに心奪われて行きました。
幕府が倒れる時に拷問に関する警察機関の資料は日本の恥として廃棄が命じられ本当の闇の歴史としてごく少ない史料しか残っていないのだそうです。
どうしても知りたくて、明智伝鬼さんの縄の講習を受けた時明智先生に「駿河問いを見せて下さい!」とお願いしたこともありました。明智先生は駿河問いについてはあまり詳しくないと言われ、それに似た吊りを見せて下さいました。
元師匠のショーでは駿河問いのような吊りが見られました。(今、私もやっているので残っていますが)
興奮気味に駿河問いについて聞くと「あれは本当の駿河問いではない」とのこと。
私はどうしても、本物の駿河問いがやりたいと思うようになりました。
本物の駿河問いと言うのは四肢を1つにまとめて縛ったものを1点で吊り上げます。
この吊りは上がった時点から地獄の苦しみで5分耐えることも難しいのです。この残酷な吊りで多くの強情な犯罪者の口を割らせて来たのですから当然です。吊られて放置されると骨が軋み口から泡をふくと言われています。更に時間が経つと内臓のダメージで血もふくと書かれた文章を見た事があります。
とにかく、強さに自信のあるMも直ぐに苦しさから逃れようと腰を持ち上げます。
ですから、腰が落ちたままのティアドロップのような形のまま長い時間耐える姿は「この痛み、苦しみを受け入れたい」という気持ちの現れなのです。
駿河問いが最高に美しい涙型に決まる、ここが私の考える駿河問いの最高の見所です。
ただし、これは月下美人以上にパートナーの体重を腕だけで挙げなくてはいけません。
セッティングも重要。
そして縄目を読めることが最も重要になります。
男性の力がある人が力で挙げるのとは違います。
バランス、セッティング、縄目、パートナーの呼吸、全てがコントロール出来れば、非力な私でも自分より体重の重いパートナーを挙げられます。
SMの興奮は、立場の逆転やギャップにあります。
女の私が腕で1人の人間の体を引き上げ、腕1本で保持して吊りで責める。
たった2本の縄で。
私はここにSMの醍醐味が集約されているように思います。
今まで、駿河問いは緊縛師のショーでしかやらない吊りでした。でも最後に、と思うとミストレスでは最後までミストレスとしてやりたいと思いボンデージにブーツのままショーをやる事にしました。
果たして踏ん張りの効かないプラスチックソールのブーツで駿河問いは出来るのか!?
自信はありませんでした。
ただ、プロとしてやって来た自分の対応力には自信があったので心が動くままに駿河問いのセッティングを始めました。
沢山の方が固唾を呑んで見守って下さっている。
何をされても私に全てを預けてくれるパートナーがいる。
私が女王として、緊縛師として夢を育てた場所に今まで修行して身につけた全てを捧げたい。
その気持ちだけに動かされて、吊り床に縄を掛けました。
まず1度縄の緊度を高めるように縄を引きました。
ここまで来てやっと、自分が減量で彼女より4kg軽くなっている現実に突然気づきました。
でも、どうしてもここに
社長に、私の歴史を捧げたかった。
昔、元師匠がミストレスで本物の駿河問いをやった時、社長が思わず興奮してお客さんに「これが駿河問いです!」とショーの途中でマイクを入れた話を思い出していました。
普段なら2回で挙がりきるところを、何度も何度も繰り返しました。私の手が壊れても絶対にこの手は離さないと自分に言い聞かせて。
すると上がりきる頃、社長の声が聞こえて来ました。
「お客様、これは最も辛い駿河問いです」と。
縄を持ちながら、涙が込み上げてヘタリ込みそうになりました。
私の気持ちを受け取ってもらえたようで。
ここで生まれて、ここで育って、苦しんだ時間が祈りのように美しく昇華されたような瞬間でした。
パートナーの駆ちゃんは初めてショーで感情を出し今日送ってくれた感想には
「人生で初めて心と身体が1つになったように思います。」と書かれていました。
誰かに捧げたくて吊りをやったのははじめてでした。
それは忘れられない祈りになりました。
ありがとうございました。
その時の動画はここで↓
https://twitter.com/natsukiss1018/status/1145298818134507520?s=21