そらになるこころ

緊縛師 青山夏樹のSMや緊縛に関する思いを綴るブログ。内容重めです。

流儀までのこと、流儀のこと。

随分前から、次の世代にバトンを渡したいと思いながら

活動してきた。

自分が救われたこの大好きなSMという世界に、何かできる事はないだろうかと。

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緊縛事故の問題や緊縛については、

お金を掛けて環境を整えたものの

同業者で一緒に研究しましょう、改善していきましょうと行動を起こす人はいなかったことにとても落胆した。

マッチョイムズの中で楽しみたい人の世界が今の緊縛業界なら私はその中には居ないし、そこに関りを持つ必要はないと感じるようになって行き

少しずつお店関係やイベント関係の関りから遠のいた。

 

幸い私の主な仕事はAVの撮影現場で女優さんを縛る仕事やものを書いたり作り出す裏方の仕事。横のつながりは仕事に影響しないので精神的に爽やかに過ごせるようになった。

 

SNSなどにも書いたけれど、緊縛師として仕事をもらうようになるには「女王様」という肩書がとてもストレスだった。

男と同じか男以上の仕事をしていきたいと思う気持ちを持ちながら、「女王様」と呼ばれ欲情した仕事をくれる側に時々プレイを求められ卑猥な会話に笑顔で答えるそんな状況から脱したくて何年も中世的な立場で仕事をしてきた。

 

そのもどかしい年月のお陰と歳をとったおかげで、女として見られることが減ったように感じる。

これはとても嬉しいことで、やっと生きやすくなったと感じている。

 

そんな中

今年DX歌舞伎町が閉館するので、最後に何かやって欲しいとのオファーを受けた。

ストリップ劇場で女の子を裸にしてAVのようなプレイを見せたり傷だらけにする表現で溢れている現状で自分のパートナーをそこに並べたくなかった。

だから去年から出演をお断りしてきた。

ところが去年、来年閉館するかもしれない。だから最後までお願いしたい。

そう言われて、SM大会が大宮から歌舞伎町に移って長い期間出演し続けたイベントが終わるなら、その恩を最後まで出演することで返したいと思った。

 

そこで最後にやりたいことは何かを考えた。

 

ストリップ劇場だからセクシーな演出をしなくては、集客のため女優さんや名前のあるモデルさんを呼ばなくては、そういう二次的な要素を一切考えず

本当に自分がやりたいこと(SM)で勝負して終わろうと。

 

 

自分のやりたいこと。

 

それは、自分の縛りが凄いでしょ!

かっこいいでしょ!と見せることではなく

残酷さを愛だアートだと言うことでもなく、

舞台の上で何の打ち合わせも練習もないままの心と心のぶつかり合い、嘘のない時間をお客さんに観てもらうことだ。

 

苦痛の果て、一瞬の煌めきのように外に現れる嘘のない顔、体の反応。

それこそがSM最大の見所であり醍醐味だから。

 

使う道具は何でも良かった。

だけど、私の考えるSM・緊縛の目指す先を示すためにも「緊縛」だけに絞った。

私の流派の縛りは私しかやっていない縛り。

その技を見せる。

 

縛りは手数など限られているものだ。

それをどうにか増やそうとしてこねくり回し、パートナーを物のように人形のように不自然な体制をとらせて雁字搦めにしたりする縛りは嫌いだ。

 

日本人の文化と美意識に反する。

 

私にとって縛りは書道だ。一筆書きの勝負。

線が歪み、縄がたるんだとしても上書きするような手直しは美に反する。

洗練された技は潔く簡潔だ。

縄筋はその人の心や覚悟を表す。

基礎がない人間にも澄んだ縄筋は描けない。

 

はじめて体に触れ、初めて縄を掛ける相手とのプレイは何が起こるかわからない。

上手くいかなかったとしても、それを観客の見守る中対処し、縄を受ける相手の心と体を守り導く。

それが緊縛ライブ。

 

女性、男性、年齢、体系、背景、そんな要素はどうでもいい。

目の前にある縛りを受けたいと思う傷ついた心との対話だけが全てだ。

 

様式美というか、上辺のイメージばかりが受け入れられ浅く広くひろがる現代に

人の生きざま。社会に背を向けた人が傷を舐め合うのではなく、希望をもたらすSMが存在することを生で観てもらいたかった。

その思いで事前に出演者それぞれと会って話しをし構成を考えていった。

 

年明けから1人1人のことを毎日ずっと考えた。

どんな傷を持っているんだろう。

何を求めているんだろう。

そんなことを考えながらパートナーごとのショーの曲を選んだ。

 

ショーで何をやるかは決めなかった。

 

決めても意味がないから。

何が飛び出すかわからない舞台は緊張はする。

だけどそれは私の腕の見せ所でもあるし、私自身困ったり悲しんだりする様を

観てもらって本当の意味で嘘のない時間にしたかった。

 

そして。

 

私の大好きなバンドHeavensDustとまた一緒に舞台をやりたい。

 

私のやりたいことはそれだけだった。

 

ストリップ劇場のSM大会の入場料にしたら

安くした。

女性に沢山観て欲しかったから。

 

私のところに届く声で近年多いのは

緊縛に興味を持ったけど、縄会やSMバーに行くしかない。

性的な接触は嫌だ。

緊縛を通して得られるかもしれない心の対話や救いに興味があるだけなのだ

そんな女性の声だった。

だから、どうしても女性に観て欲しかった。

私が女性たちと交わす緊縛は性的表現ではない。

恋愛やセックスから切り離された心と心の会話、まさに純粋なSMを抽出する時間だ。

 

劇場の売り上げ的には男性が多い方が儲かる。

だけど、最後に私が貸し切りでやる舞台は赤字でも自分で全員のギャラを払う覚悟でお金を用意して準備を始めた。

だから宣伝についても強気で、アダルト関係のお店などにはほとんど営業しなかった。

Twitterで想いを暑苦しく書く程度。

前売り券も、事前銀行振り込みでチケットを郵送する。

昔からアダルト関係の取引はみな匿名の現金書留などで払い私書箱や郵便局留めで受け取っていたのが、今回約50名の方が事前に銀行に振り込んで下さり自宅にチケットを郵送する形で前売りを買って下さった。

これは大きな驚きだった。

 

確実に、何かが変わっているのだと感じた。

 

多くの女性の方たちが勇気を出して初めてのストリップ劇場、初めての緊縛ショーを観にきて下さった。3時間半もの長い時間、しっかりと私の頑固な流儀を受け止めてくださった。

人生において、険しい道を選んできた緊縛師としての自分にとって

本当に大きな力を頂いた。

 

当日も沢山の方が駆けつけてくださり、沢山の心のこもった感想をくださった。

 

SM業界に落胆しきっていた私に、もう一度前を向けと

皆さんが背中を押して下さるように感じ涙が止まらなった。

 

 

そして。

 

打ち上げの時、何人もの方からずっと私の文章や活動に励みを得ていると

言ってもらった。

そうして彼女たちの苦しみや置かれた現状についても知ることになる。

 

つづく