闇の中から、遠く光の円の中で泣きじゃくる彼女の姿を長い時間見つめていた。
どうしてあの娘はこんなに辛い状況に自ら望んで身を置いているのか。
苦しむ様子、怯える様子を見ているだけで胸が潰れてしまいそうだった。
そして、私が彼女に手を差し出す時間が来た。
ゆっくり歩みを進め、彼女の目線に合わせて座り込み泣きじゃくる彼女の涙を拭いた。
舞台の上、彼女に問いかけた。
「どうしてこの舞台に上がることを決めたの?」
彼女は一瞬戸惑った顔をした後、強い瞳で私に答えた。
「変わりたくて。」
そう、彼女はそれまでの自分を乗り越えたくて、変わりたくてこの舞台に臨んだのだ。
私は確かに彼女の思いを感じた。
それまで準備していたものを忘れ、一緒に乗り越えようと話した。
「じゃあ、ちゃんとSMをしよう」
彼女の涙を拭いて、落ち着かせてから縛り始めた。
でも、直ぐに辛くなると目が宙を泳ぎ泣きわめく。
泣いてもいい。でも、辛い時は必ず私の目を見て。
何度も繰り返しながら、瞳を逃がさずこちらを見てくれるようになっていく彼女。
泣かない、いいね、泣かないよ。
少しずつ、涙も止まって行く。
でもまたキツい場面になると、呼吸が荒くなり過呼吸を訴える。
大丈夫、過呼吸にさせない。
全てが調教なんだ。
つまり、呼吸することをコントロールするところからSMをするんだ。
苦しくても泣かず、不安で過呼吸になることも乗り越え、私を真っすぐみてくれる彼女の綺麗な瞳から
一筋の涙がこぼれ落ちた。
劇場の薄暗い青が支配する空間で透明な明るい光が彼女を照らす。
その作り物ではない涙が、とても美しかった。
舞台の上、観客が見守る中、彼女が彼女の意志で強く美しく輝いていく様をこの手で支える。
彼女は、強く、美しく、再び立ち上がった。
私はこの後に待ち受ける責めに、彼女が自分を乗り越えたいと願った思いを成し遂げることを
祈りながら舞台を降りた。
忘れられない瞳だった。